アニメ「ポケットモンスター」が、2023年3月24日、ついに最終回を迎えた。正確には、4月から新シリーズが開始するためポケットモンスターのアニメは続く。ただ、26年間ずっと主人公であったサトシとその相棒であるピカチュウの物語が幕を閉じることになった。
最終回は30分であっけなく終了した。自分が幼い頃からみてきて、一緒に成長してきたような感覚もあるアニメが終了するのは、やはり寂しい気持ちがある。一方で、どこか清々しさもある。
というのも、実はこの26年間を通じて、サトシはずっと「生きていく姿勢」について教えてくれていたのだと、最終回にしてようやく私は気がつくことができた。
「夢はポケモンマスターになること」
サトシはアニメ開始初回から、「夢はポケモンマスターになること」と言っていた。しかしこの26年間にわたり、これまで「ポケモンマスターとはなにか」というものは明示されてこなかった。
そしてついに、先日の最終回で「ポケモンマスターとはなにか」という問いに、サトシなりの答えがだされたのだ。
サトシはポケモンマスターについて、こう言っていた。
大切なのは、何になりたいかではなく、どんな人間になりたいのか。
ところで、最近ある方がおすすめしていたので読んでみた書籍に、示唆深い記述があった。
喜多川泰 先生の「賢者の書」は、サイードという少年が、各地に散らばる賢者のもとを訪れ、それぞれの賢者に教えを一つずつもらい、賢者の書を完成させていく物語である。
そのうち、第四の賢者からの教えが示唆深い。
サイード「僕は賢者になりたいです。最高の賢者に」
第四の賢者「それは『何になりたいか』であって、『どうなりたいか』ではない。それに、残念ながら賢者というものは、なるものではない。自らが自覚をしてなるものではなく、期せずして人からそう呼ばれるようになるものだ。賢者というものがあるわけではなく、多くの者がそう呼ぶから、賢者だと認められる。そういうものでしかない。」
その後、第四の賢者はこう告げる。
第四の賢者「大切なのは、何になりたいのかではないのだ。何になろうともかまわんが、どんな人間になりたいのかなのだ。」
マスター家庭医とは?
そしてこのアニメ「ポケットモンスター」最終回に関して、私の尊敬する家庭医である藤沼康樹先が、Facebookに投稿していたコメントが非常に印象的だった。
サトシから今日は学んだぜ・・・つまり、マスター家庭医とは、いわばライフスタイル、Way of Lifeのことなんだ・・・
(2023/03/24 藤沼康樹先生 Facebook 投稿より)
サトシが示した生き方・価値観
「賢者の書」や藤沼康樹先生の言葉を引用して掲載してみたが、いずれも語られているのは、「どう生きていくのか」ということに重点がおかれていることである。
改めて、サトシの言葉をみてみよう。
一見すると、「ポケモンマスター」という称号を得ることが目標のようにみえてしまうが、実はそうではないことがわかる。
すべてのポケモンと友達になることがポケモンマスターなのであれば、現実的に考えればそれは叶うことはない。しかし、それでもサトシはポケモンマスターの定義をそのようにおいており、そしてポケモンマスターを目指している。
これはつまり、サトシは「どう生きていくのか」という問いに対して、「世界中、全部のポケモンと友達になるんだ」という言葉で、自分の生き方、価値観を示しているのだ。
そして過去26年間のサトシの旅路で、サトシがポケモンたちにみせてきた姿勢というのは、アリストテレスが重んじた倫理的徳のひとつである、友愛と言えるのではないだろうか。
サトシはこの26年間、ずっとこの生き方、価値観、倫理観を示してきていたのだ。
わたしは、あなたは、どう生きていくのか
サトシにとって、ポケモンリーグのチャンピオンになったことは、あくまで過程でしかない。
医師で言えば、学術論文で賞をとったり、活動が表彰されたり、ましてや専門医資格を取得することなど、あくまで過程でしかなく、人生の目標には足り得ない。
自分はどんな人間になりたいのか。どう生きていくのか。
これはある意味、倫理的な問いであろう。
サトシが最終回で教えてくれたこと。それはとてもシンプルで、そして果てしなく、奥深いものだった。
私はまだまだ未熟な家庭医だ。自分にとっての Master of Family Physician(マスター家庭医)の定義は、まだわからない。
いつか、自分にとってのMaster of Family Physician(マスター家庭医)が何なのかわかる日がきたらいいなと思うが、それはまだまだ先のことになりそうだ。
自分の生き方を見つめなおし、そして突き詰めていった先に、Master of Family Physician(マスター家庭医)と呼ばれる日がきたらいいなぁ。
めざせ、家庭医療マスター。