岡山の家庭医の読書・勉強ブログ

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読書記録:「他者と生きる リスク・病い・死をめぐる人類学」

他者と生きる リスク・病い・死をめぐる人類学

 

 

時間の合間をぬって、一気読みしてしまいました。それくらい面白かったです。

 

この本は、全体を通して「手ざわり」がテーマになっていると思います。

 

まず、ひとりの医師としてこの本を読んで、自分は目の前の患者の生活を過度に医療化してしまっていないだろうかと、振り返るきっかけになりました。

 

エビデンス統計学的情報を絶対的「正しさ」として振りかざして、その人のもつ経験や物語、「手ざわり」感を、ないがしろにしてしまっていないだろうか、と。

 

あとは、後半で語られる「関係論的時間」の概念は、時間というある種無機質にも感じるものに、「手ざわり」感をもたせてくれるようで、新鮮に感じました。

 

ブクログでは、ぼくがこれまでに読んできた本を登録しておりますので、よかったらご覧になってみてください。

booklog.jp

 

格差はなくなるのか?格差はゼロにしたほうがいいのか?(読書記録「格差という虚構」)

読書記録。

今回は小坂井敏晶さんの「格差という虚構」です。

タイトルだけみると、「格差なんて本当は存在しないんだよ」と言いたいのではないかと誤解されてしまいそうですがそうではなく、格差はなくなるのか、そもそも格差とはなんなのか、よく一般的に提起されている問題や認識について、その前提や背景に目を向けて再考させてくれる一冊でした。

 

キーワードは、

格差、能力、虚構、意志、責任、偶然、贈与、信頼

 

この本の主旨は、以下の部分が端的に説明してくれています。

 

・①能力は遺伝・環境・偶然という外因が作る。したがって能力に自己責任はなく、格差は正当化されない。メリトクラシー法の下の平等は階級支配を隠蔽するためのイデオロギーであり、遺伝・環境論争は科学を装う階級闘争の表現である。


・②格差はなくならないし、減っても人間は幸せにしない。格差の問題はその大小になく、本質はその差異を生む運動である。人間が互いに比較する存在である以上、差異はなくせないし、そこから苦しみや嫉妬が永遠に続く。

(本文 p304 より )

 

この本では、「責任(ないしは自己責任)」が大きなテーマのひとつとなっています。國分功一郎さんの著書でよく書かれている、責任と帰責性の違いから考えるなら、帰責性としての「自己責任」は正当化されません。その意味で、能力は「自己責任」ではないです。ただし、自らに湧き上がってくる「責任」として、能力を磨いていこうとする努力は必要でしょう

 

また、この本にかかれている通り、格差は正当化できません。「格差の問題は大小にない」と書かれてはいますが、生活を脅かすような大きすぎる格差は是正されて然るべき。しかし一方、ある程度の格差は引き受ける前向きな態度も必要なのではないかとも書かれてあります。それは個性と言えるかもしれないし、多様性と言えるかもしれない・・・。その意味では、人間である以上、格差はなくならないし、なくなっても人間は幸せにならない

 

この本の終盤では、小坂井さんは竹内啓さんの書籍から引用し、「偶然性」を格差に対する処方の1つとして挙げています。

 


偶然は無知に基づく予測不可能性でも、あるいは、必然性からの単なる逸脱でもない、積極的な役割を果たしている。(竹内啓「偶然とはなにか―その積極的意味」より)

(p321より引用)

 

 

そして、最終的な結論に至ります。

格差は絶対になくならない。それどころか、格差が小さくなればなるほど、人間はよけいに苦しむ
・評価は比較であり、必然的に同質化をまねく。多様性は逆に比較不可能な才能が共存する状態だ。平等で客観的な評価は個性と相容れない。
・我々が目指すべきは全員が少数派として生きられる、多様性に溢れる社会だろう。偶然がもたらすチャンスを活かせる社会が望ましい

(p339より引用)

 

「偶然がもたらすチャンスを活かせる社会が望ましい」というのは、その通りです。ただ正直なところ、偶然性にすべてを託すことは非現実的なのではないかと思いますが、その偶然性を掴みうる補助や、そこからこぼれ落ちてしまう人たちに、どんなタイミングでも手が差し伸べられるセーフティネットは、やはり必要だと思いました。

 

そしてそのセーフティネットは、いつだれが必要となるかわからないという「偶然性」も、私達は認識しておく必要があるのだと思います

 

 

2021年を振り返る。

2021年も今日で終わり。1年間のまとめをここらでしておきます。
 

今年の目標確認

去年末に掲げた2021年の目標と結果はこちら。
 
■他人と自分を比較しない
→ これはだんだんとできるようになってきました。「こうなりたいんだ」という具体的な目標を掲げていないおかげなのか、柔軟に、今やりたいことに集中できていた1年だったようにも感じます。
 
■質的研究:そろそろ集めたデータの分析を終わらせる。論文を書き始める。
→ これは達成できず。というよりも、研究への熱が冷めてしまい、臨床の忙しさも相まって、ほとんど手をつけることがありませんでした。残念。やはり鉄は熱いうちに打たないとだめですね。反省。
 
ポートフォリオ:こちらも手をつける。来年は5つのポートフォリオを作成する。
→ こちらも達成できず。ポートフォリオのネタはみつかり、ちょこちょこと書いてはおりましたが、完成まではいたらず。異動も多かったので、臨床に時間と気力を持っていかれてしまいました。いや、言い訳ですね。すみません。
 
といった感じで、去年の目標は3分の1は達成できたという結果でございました。ちょっとでも前進できていてよかった。
 
 

今年やったこと

記録も兼ねて、今年やったことを次にまとめます。
 
臨床
・2020年4月〜2021年3月:岡山市民病院
2021年1月〜3月 救急科
・2021年4月〜2021年9月:渡辺病院 内科
外来、病棟、訪問診療、上部消化管内視鏡検査
・2021年10月〜2022年3月:津山中央病院
2021年10月〜2022年1月 小児科
外来、病棟
 
→ COVID-19が流行する中、市中病院の救急外来でたくさんの症例を経験できたことは大きかったです。重症患者も多く、医学的知識・技術の向上に加えて、マネジメントスキルも鍛えられました。外傷診療の経験を積むことができて良かったです。
  4月からは、山間部に位置する小病院で、病院家庭医やっていました。とりあえずどんな方でもまずは診療にあたります。そこで求められる役割を果たすため、自分の働き方や役割を変えて対応していく。今まで上部消化管内視鏡検査はやってきてませんでしたが、必要とされていたので、スキルを身に着け、最終的にはスムーズに実施できるまでにはなりました。
  そして10月からは、小児科研修。今まであまり経験を積めてこれなかったので、はじめは四苦八苦しておりました。だんだんと小児科診療にもなれてきて、新生児の診療も一定ラインまではできるように。
 
発表・ワークショップ
・2021年2月 第19回日本病院総合診療医学会学術総会
血中骨型アルカリホスファターゼ/アルカリホスファターゼ(BAP/ALP)比の臨床的有用性に関する検討
 
・2021年4月 第118回日本内科学会総会・講演会 一般演題
血中骨型アルカリホスファターゼ(BAP/ALP)比の臨床的有用性の検討
 
・2021年5月 第12回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会
教育講演 「ダイバシティを阻む最大の敵?スティグマについて学ぶ」
 
・2021年8月 第33回 日本プライマリ・ケア連合学会 夏期セミナー
コロナ禍で、あなたにも迫る健康格差 〜社会的処方で乗り越えよう〜
 
・2021年10月 適々斎塾 若手部会
適々斎塾 特別企画「グループディスカッションをとことん味わう症例検討100分1本勝負!」
 
・2021年12月 適々斎塾 若手部会
合水塾 「臨床実習のトリセツ 〜カルテの書き方と問診の不安、解消します♡〜」
 
・2021年12月 プライマリ・ケア連合学会中国ブロック若手有志企画
ゆるりと始める 学術的アウトプット 〜臨床の疑問を研究ネタにするには〜
 
 
講演・出演
・2021年4月18日/25日 FM岡山 ラジオ出演
お医者さんの本棚~あなたにも読んでもらいたい~
 
・2021年5月8日 合水塾 第2回 臨床推論セミナー
特別講師:鋪野先生(千葉大総診)
 
・2021年11月20日 適々斎塾
シニア世代のための家庭医療学ドリル その1 「地域志向のプライマリ・ケア」
 
・2021年12月11日 岡山県民医連 医学生向け講演会
「病気になるのは 本当に自己責任? 〜健康格差と健康の社会的決定要因〜」
 
活動
・チームSAIL 

sites.google.com

・適々斎塾 若手部会 
 
学会関連 役職
・日本プライマリ・ケア連合学会 専攻医部会 → 6月で終了
・日本プライマリ・ケア連合学会 中国ブロック 若手医師部会
・日本プライマリ・ケア連合学会 広報委員会
・日本プライマリ・ケア連合学会 健康の社会的決定要因検討委員会
 
論文
・Yokota Y, Watari T.   Various perspectives of "General Medicine" in Japan-Respect for and cooperation with each other as the same "General Medicine Physicians”.  J Gen Fam Med. 2021 Nov 1;22(6):314-315.
 
雑誌
・緩和ケア 2021年06月増刊号/ (緩和ケアに活かすICT)
3 スマホで勉強する方法
 
・南山堂 治療 2021年8月 Vol.103 No.8:特集「21世紀適々斎塾流!いつもの診療にプラスする家庭医療実践」
地域志向のプライマリ・ケア
 
インターネット記事
・2021年4月 お医者さんの本棚~あなたにも読んでもらいたい~ 「人に優しく、モノの見方が広がる本/横田 雄也先生」
 
・2021年5月 Antaa Slide これだけは知っておきたい! 家庭医療学 はじめの一歩
 
・2021年8月 日経メディカル「総合診療に関する質問にお答えします!」
 
・地域医療ジャーナル
2021年08月号 vol.7(8) なぜわたしたちは「健康」であろうとしているのか?
 
2021年09月号 vol.7(9) 「こだわりの強い患者」という表現の違和感
 
2021年10月号 vol.7(10) ノセボを「疾患(Disease)」と「病い(Illness)」の視点で考える
 
その他、やったこと・やりはじめたこと
・コミュニティ・ヘルスケア・リーダーシップ(CHL)学科 第9期
 
・「患者中心の医療の方法 第3版」読書会 → 終了
 
ブクログに読書記録をつけ始めた
 
 
こうやって振り返ると、今年も新しく始まったこともおおいですね。そう考えると、「他人と比較している」時間もなかったのだと思います。それはそれでよかった。個別の事項で振り返ってみたいことはたくさんあるけれど、ひとつひとつ書いていると年が開けそうなので、ひとまずこれくらいに。
 
 
 

来年の目標

今年も3つくらい掲げておきます。
ポートフォリオを10本書く
これは切実な目標。専攻医研修が残り短くなってきたので、終わらせないといけない。
 
②診療所や訪問診療の診療スタイルを身につける
来年からいよいよ診療所研修が始まるので、これは外せない。
 
③やっぱり他人と比べない
自分には自分のキャパシティもあったり、興味・関心もひとによってバラバラなので、やっぱり他人と比べない。
 
 
 
ということで、今年も1年お疲れさまでした。
来年もぼちぼちがんばります。よいお年を。
 

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医学生向け勉強会のお知らせ(「病気になるのは 本当に自己責任? 〜健康格差と健康の社会的決定要因〜」)

医学生向けですが、こんな勉強会があります。

 

Zoomでも視聴できるみたいです。岡山県外の医学生の方でも参加可能とのこと。

 

健康格差とか、健康の社会的決定要因とか、生物心理社会モデルとか、総合診療のこととか話します。初期研修のこととか、総合診療研修のこととか、ききたい方もどうぞ。

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医学生の方でもし興味のある方がいらっしゃいましたら、下記申込みフォームよりお申し込みください。

申し込みフォーム↓

docs.google.com


(写真は5年前のものなので今より痩せてます)