【論文掲載のご報告】日本の総合診療医(General Medicine Physician)について、わかりやすくまとめてみました。
わたしが執筆した、日本の総合診療医の様々なカタチについて述べた論文
「Various perspectives of “General Medicine” in Japan—Respect for and cooperation with each other as the same “General Medicine Physicians”」が、
Journal of General and Family Medicine(JGFM)に掲載されました!
→ https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/jgf2.500
オープンアクセスですので、どなたでもご覧になっていただけます。
この記事では、論文の概要と補足説明を書きます。
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■論文の概要
まずは論文全体の概要から。
日本国内において、総合診療医を表現する様々な言葉が存在する現状で、わたしは以前より、一般住民だけでなく医療関係者においても、複雑でわかりにくくなっているのではないかと感じておりました。
そこで今回の論文では、家庭医(Family Physician)やホスピタリスト(Hospitalist)、病院家庭医(Hospital Family Physician)など、日本国内における様々な「総合診療」のspecialitiesの特徴がひと目にわかるよう、operating systemと診療セッティングの2つの観点から、グラデーションで図示することを試みました。
国内の実情も踏まえながらそれぞれのspecialitiesの特徴を述べつつ、それぞれのspecialitiesが同じ総合診療医として互いに尊敬し、協同していくことが重要であると述べています。
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■論文の補足説明と私の思い
以上が今回の論文の概要ですが、ここからは、論文には掲載しきれなかった補足や、私の思い・考えを、3つのポイントに絞ってまとめていきます。
①2つの観点で示したグラデーションでの図示
まずひとつ目は、日本の総合診療についてまとめた図について。
先程概要でも述べたように、日本国内における様々な「総合診療」のspecialities(家庭医、病院家庭医、ホスピタリスト)の特徴がひと目にわかるよう、operating system(OS)と診療セッティングの2つの観点から、グラデーションで図示しています。
ポイントは、グラデーションで示したところです。明確な線引はできないと考え、便宜上分類するためにひいた線も点線としています。
縦軸に書かれているclinical operating system(OS)とは、例えるならコンピュータで言うところのWindowsやMacなどのことです。臨床において、家庭医療学(Family Medicine)的思考と、内科学(Internal Medicine)的思考がどの程度の割合で実践されているのか、グラデーションで示しました。
図のFamliy Physicianの部分でいうと、点線で区切られたなかでみてみると、ピンク色のFamily Medicineが半分くらいを占めていて、青色のInternal Medicineが半分くらいを占めています。一方、Hospitalistはほとんどが青色になっており、ピンク色は一部となっています。このようにして、それぞれのspecialitiesの特徴をOSの観点から、大まかに分類してみました。
横軸の診療セッティング(clinical setting)とは、どんなところで診療を行っているかです。診療所や訪問診療を中心としているのか、病院勤務を中心としているのか、こちらもグラデーションで図示しています。
日本の家庭医は、診療所や訪問診療を中心としており、横軸の部分をみてもらっても、ほとんどがピンク色になっています。ホスピタリストは名前の通り、病院勤務が中心で、横軸で青色になっています。
病院家庭医は図示している通り、ピンク色も青色も入り混じっており、その割合は地域ごとに異なっています。病院家庭医は病院勤務を中心としていますが、訪問診療をおこなっている医師も多く、時々診療所で診療していることもあります。これは日本の病院家庭医のユニークな点であると思います。
また、場合によっては家庭医が時々病院で勤務するというパターンもあるでしょう。
このように、日本の総合診療医は、診療セッティングも多種多様であり、それだけで明確に線引して分類することは難しいと考えます。
②日本における「総合診療医」と「病院家庭医」の英訳
2つ目は、日本における「総合診療医」と「病院家庭医」の英訳について。
今回の論文を執筆するに当たり、日本語を英訳する際にいくつかの壁がありました。
まず、日本における「総合診療医」を示す英単語で、コンセンサスの得られたものはこれまでに定まっていませんでした。専門医機構は、日本における総合診療のことを「General Medicine」とすると決定しておりました(2020年度第3回総合診療専門医検討委員会議事録を参照)。しかし「総合診療医」の英訳は決まっていませんでした。
そこで今回の論文で私は、専門医機構の決定した「General Medicine」を踏まえて、日本における総合診療医を、「General Medicine Physician」と訳すことといたしました。
また、「病院家庭医」についても、日本におけるコンセンサスの得られた英訳はありませんでした。
海外での報告では、Family Medicine Hospitalistや、Family Physician Hospitalistといった言葉で表現されているものもありましたが、日本語の印象を残したいと考え、「Hospital Family Physician」といたしました。
このような論文の形で、日本における総合診療医を表す英単語を「General Medicine Physician」と提案したのは、今回が(おそらく)初めてではないかと勝手に考えています。大したことではないかもしれませんが、いずれにしても今後議論されていくべき内容であると考えます。
③同じ日本の総合診療医として、ジェネラリストとして、お互いの尊敬と協同
3つめはこの論文の裏テーマでありつつ、実はもっとも言いたかったことかもしれない内容です。論文にはすべては載せられなかったので、ここにその思いをコッソリ書いておきます。
総合診療医を目指そうと思い始めたころから、「総合診療医ってどんな医師のことを言うんだろうか?」と、私はずっと考えていました。いろいろな先生方のご活躍を見たり聞いたり、総合診療について書かれた書籍や論文を読んだり、情報をあつめてきました。
しかし時折、同じ総合診療医同士、はたまたジェネラリスト同士で互いを貶してあうような状況を目にしてきた(耳にしてきた)ことがありました。
例えば、同じ総合診療医であるにも関わらず、「家庭医療学を実践している、家庭医こそが総合診療医だ」とか、「医師たるもの、まずは病気を治せないといけない。家庭医ではなく病院総合医こそが総合診療医だ」とか、そんな風なことも耳にしたことがありました。
また、同じジェネラリストであるにも関わらず、「総合診療医は、総合診療とかいって難しい疾患を診断するだけで、治療はしないんだ」と、総合診療医を揶揄していた救急医の先生もいたり、逆にとある総合診療医の先生が「あの先生らは病気のことしかみない。心理社会的な部分もみないで、なにがジェネラリストだ」と揶揄していた場面にでくわしたこともありました。総合内科医と総合診療医の違いをことさらに強調して、明確に区別しようとされる人もいました(実はそういうわたしもかつてはそうでした)。
そんな場面に遭遇するたび、わたしはとても悲しい気持ちになっていました。
もちろん、総合診療医やジェネラリストのあり方について議論することは大切です。
しかし、それぞれが診療しているセッティングや状況によって、求められていることや技術が異なっていても、決してそれは敵対するべきものではなく、お互いに協同して補完しあっていくものであるはずです。
これは論文中に書きましたが、specialtiesごとに実践内容はある程度異なっているものの、「家庭医」も、「病院家庭医」も、「ホスピタリスト」も、それぞれの診療セッティングにおけるニーズに柔軟に対応するという点で共通していて、同じ総合診療医です。また、総合診療医も、在宅医も、救急医も、集中治療医も、みな同じジェネラリストです。
それぞれがアイデンティティを持ちながらも、同じ総合診療医、そしてジェネラリストとして、互いをリスペクトし、そして協同していくことが重要であると考えます。
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補足と言いながらも、論文の内容のほとんどを語った記事になってしまいました。
今回の論文をきっかけに、日本の総合診療医が広く認識・理解されていき、議論が深まっていけたら幸いです!