岡山の家庭医の読書・勉強ブログ

岡山の家庭医のブログです。総合診療や家庭医療、哲学、ビジネス、いろいろ。

【読書記録】「医療者が語る答えなき世界 -「いのちの守り人」の人類学」

医療人類学者・磯野真穂さんの著書。インタビューを通して、医療者の苦悩や葛藤が描かれていて、人類学的視点から考察されている。

 

特に気になったのは、医学と医療の違い、そして「患者中心の医療」のこと。

 

・・・

p163 「医療者の仕事の根幹は、モノとしての人間を徹底的に標準化することで体系づけられた医学という知を、それぞれの患者の人生にもっとも望ましい形でつなぎ合わせ、オーダーメイドの新しい知を患者と共に作り出していくことにある。」

 

p164 「医療者の仕事は医学を医療に変換すること。

 

まさにこれは患者中心の医療のことじゃないかと思って読み進めると、やはりエピローグにもまとめられていた。

 

p221 「近年いわれる「患者中心の医療」は本人たち自身が主役にならなければ成立しえず、それは私たち自身が自分のカタチをよく見る作業抜きには語れない。」

 

患者が医療者に「命のアウトソーシング(p55)」をするのではなく、患者は自分自身のことと引き受けつつ、医療者は患者とともに考え、患者の生き方を支えていくことなのだろう。

 

 

 

 

桜の苗木を植えるようなお仕事

桜の季節ですね。

桜スポットをいくつかまわってみたけれど、結局自宅近くが1番咲き狂っていて綺麗でした🌸

 

ふと思ったのですが、僕たちがみて楽しんでいる桜並木って、何十年も前の人が植えてくれた桜なんですよね。

 

桜の苗木を植えている人は、その桜が大きく育ち、楽しむまでには何十年もかかる。

 

もしかしたら自分はその桜が大きくなった姿はみれないかもしれないけれど、何十年も先の人たちのために桜を植えてくれている。

 

すぐに結果のでる、もしくはすぐに結果をださないといけない短い時間軸の活動も大切だけれど、桜の苗木を植えるような長い時間軸の活動もやっていきたいなぁ。

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みんながもっと気楽に家庭医療学を学べたらいいのに。

個人的な関心もあって、私は哲学に関する書籍を手に取ることが多いです。

哲学の一般的なイメージといえば、「難解」であったり、「生活に役立たない」など、ネガティブな側面が思い起こされることが多いのではないでしょうか。

 

 

その一方、哲学を日常生活や仕事に活かす・実践に落とし込むような書籍が最近は多く、実際に哲学をビジネスシーンで活用しようとする流れが、ここ数年起きています。

 

 

そんな本を読んでいて、ふと思い浮かんだこと。

 

 

 

家庭医ではない殆どの医師にとって、

疾患の診断・治療といった医学の勉強が臨床に直結して実践的であるとするなら、

家庭医療学は臨床に直結しないような非実践的なもので、知っていても知らなくてもいいような、ある種の教養レベルの認識なんだろうか。

 

 

 

もしそうだとしたらこれって、冒頭に書いたような、ビジネスパーソンにおける哲学を始めとした人文学に対する認識と、似ている気がします。

 

バランスや割合の問題だと思うんです。

 

これは決して、家庭医療学のほうが大切だとか言いたいわけでなく、その医師が働いている場面で必要十分な医学的スキルを持ち合わせておくことが前提の上での話であって、臨床においては、医学も家庭医療学も、どちらも同じくらい大切なものなのだと思います。

 

あえて振り切った言い方をするなら、

家庭医療学が人や社会との関係性を対象にしている学問である点から考えると、

臨床に従事している医療従事者なかで、家庭医療学と無縁であることは決してないということだと思います。

 

 

そうはいっても、日々アップデートされる医学情報をキャッチアップして勉強しているだけで精一杯になる中で、家庭医療学を勉強しようという余裕を持つことのできない方が多いのではないかと。

 

また、わたしを含めて若手医師は、どうしても医学的知識や経験が不足している部分が多く、その点に意識が吸い込まれてしまい、家庭医療学に興味を持つきっかけも少ないのかもしれないです。

 

 

 

もっと気軽に、気楽に、家庭医療学が学べたらいいんじゃないかなと思うんです。

 

そういうツールや書籍がもっと増えたらなぁとも思ったり・・・。

 

哲学を多忙なビジネスシーンに活用していこうとしている流れは、家庭医療学を多忙な様々な臨床現場で活用していこうとすることの参考になる気がしています。

 

そう考えると、殆どの医師にとっての家庭医療学の認識が「ある種の教養レベル」のものであっても、それはそれで興味をもってくれるならアリな気もしてきました。

 

むしろ、家庭医療学という冠を押しつけすぎるがあまり、他領域の医師に煙たがられていないだろうか、と。

「家庭医療学を学ぶのであれば、かくあるべき!」という厳密さは排他的で、損をしている気がします。

 

「こんな考え方やフレームがあるんですよ」くらいの感じで紹介するのがいいのかも。

 

「診療上手になれる!」とか、「外来がたのしくなる!」とか、それくらいのスタンスで、総合診療医や家庭医の先生以外にも家庭医療学を学んでもらえたら、医師にとっても患者さんにとっても、お互いハッピーになるんじゃないかな・・・

 

そんな風な妄想をしています。

 

(こういうことを書くと、「まだまだお前は家庭医療学のキホンすらできていないくせに、何を言っているんだ」とツッコミがきそうですが、それは重々承知しております )

 

 

結局何が言いたいかと言うと、

家庭医療学、楽しいからみんなも一緒に勉強しようぜ!

ってことです。

 

 

2022年1月に岡山の家庭医が手にした本とオススメ本

2022年になってもう1ヶ月がおわりましたね。風のように過ぎ去っていきました・・・。明日から2月ですが、頑張っていきましょう!

今回は、2022年1月の1ヶ月間に手にした本や読み終わった本をまとめています。

 

 

書籍一覧

 

「他者と生きる リスク・病い・死をめぐる人類学」 

 → 読了

この本は、全体を通して「手ざわり」がテーマになっていると思います。

まず、ひとりの医師としてこの本を読んで、自分は目の前の患者の生活を過度に医療化してしまっていないだろうかと、振り返るきっかけになりました。エビデンス統計学的情報を絶対的「正しさ」として振りかざして、その人のもつ経験や物語、「手ざわり」感を、ないがしろにしてしまっていないだろうか。

後半で語られる「関係論的時間」の概念は、時間というある種、無機質にも感じるものに、「手ざわり」感をもたせてくれるようで、新鮮に感じました。

 

 

言語が消滅する前に 」 

 → 読了

中動態、勉強、コミュニケーション、エビデンス主義などなど、様々なトピックが、「言語」の横軸で横断的に議論されている1冊でした。とくに第3章「「権威主義なき権威」の可能性」が、示唆に富む内容が個人的に多かったです。

現代的なコミュニケーションは、何でも明確に表出することを求める、明るみの規範化が問題となっている。そうではなく、人には「心の闇」が必要である。言語化できないような不合理性があることで、曖昧なかたちのままで自己を認識できたり、どこか他者を信じれたりする。

それに関連して、エビデンス至上主義は、ある種の民主主義の徹底でもあるけれど、全てを明るみにしなければいけないとか、エビデンスだけで全てがわかって、合理的に判断できるのだと勘違いしてしまっている

言語が果たす役割の大きさと可能性を感じされられた1冊でした!やっぱり國分さんと千葉さんの本は面白い。

 

■「いずれくる死にそなえない」 

 → 読了

医療に対する向き合い方を見直させられる一冊。「寝たきりになったら困りますよ」という言葉の背景にある、「寝たきり」に対する差別を認識させられました。まだ自分の言葉では表現しきれないような、ぐちゃぐちゃした感情が渦巻いています。医療と生活のちょうどいい距離感を模索したいです。

 

 

「21世紀の道徳 学問、功利主義ジェンダー、幸福を考える」 

 → 読了

道徳や倫理ときくと、どこか捉えどころのない、感情的で普遍性のないようなものにかんじるかもしれない。

本書を通じて、道徳や倫理は、共感や想像力などの感情的な要素だけでなく、科学的で抽象的な推論や思考、論理があることによって生まれ、認識され、実践されるものだということを、改めて認識させられました。

この本の言葉を使うとしたら、自分の中に道徳をつくり実践していくためには、科学的で抽象的な思考と物語的想像力が必要であり、そのどちらも磨いていく必要性を感じます。

 

 

■「自分の頭で考える読書 変化の時代に、道が拓かれる「本の読み方」」

 → 読了

よくある読書本にみえて、実は学び全般に通ずる思考・姿勢を、数々の名著からの筆者自身の学びとともに紹介してくれている1冊。

この本に書かれてある通り、「何かの役に立つのか?」という気持ちで読むよりも、読むこと、学ぶことそのものを楽しむ気持ちでこの本も読むことをおすすめします。

「そのとおりだ!」と本を純粋に受け入れて楽しむ熱狂と、本の内容に疑問を持ちながら批判的に読む懐疑とのバランスを、それぞれの書籍でもっておきたいですね。

 

 

「現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全: 脳が超スピード化し、しかもクリエイティブに動き出す!」 

 → 読了

スマホ全盛時代における知的生産術について具体的に解説された一冊。 『無理に集中しようとするのではなく、あえて「散漫力」を逆活用』しようという言葉に救われました。すでに自分も活用している「ポケット」や「Evernote」といったアプリも、まだまだ活用しがいがありそうです。

 

 

 

「インプット・アウトプットが10倍になる読書の方程式」 

 → 読了

よくある読書術の本の体裁をとりながらも、「視点」と「法則」の2点をビジネス書から得て、考えて、アウトプットにつなげる方法を解説してくれていました。具体と抽象がテーマでもあります。

フレームワークを知っても活用できないのは、何を考えたらいいかという「視点」しかえられていないから。「どう考えたらよいか」という「法則」を考え、身につけることが必要です。

 

 

「勤務医にこだわる ~私の進化型総合診療構想」 

 → 読了

筆者の考える「総合診療医」について、筆者の経歴を踏まえながら語られた1冊。筆者の語る総合診療は、診療の幅広さ(特に疾患の包括性)にフォーカスがあてられているような印象。たくさん専門医資格をとっていらっしゃって、維持するだけでも大変だろうなと感じました。

 

 

■「はじめて考えるときのように 「わかる」ための哲学的道案内 」

 → 読了

 

 

NHK「100分de名著」ブックス 歎異抄: 仏にわが身をゆだねよ」 

 → 読了

 

 

「デジタル読書のすすめ: クリエーターのための「知識からアウトプットまでの一貫したプロセス」が手に入る! 知識とアウトプットシリーズ」 

 → 読了

 

 

ジョジョの奇妙な冒険 第8部 カラー版 (ジャンプコミックスDIGITAL) [Kindle]」

Netflixで第6部をみはじめて、なぜか無性に第8部が気になってしまい、つい購入してしまいました。評判は結構わかれているみたいですが、ミステリー要素が多くて好きです。

 

■「本当にわかる社会学

 

■「落合陽一 34歳、「老い」と向き合う:超高齢社会における新しい成長」

 

■「知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ」

 

■「哲学ディベート―<倫理>を<論理>する 」

 

■「HEALTH RULES (ヘルス・ルールズ) 病気のリスクを劇的に下げる健康習慣」

 

■「みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界」

 

 

医学書

「誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた」 

 → 読了

紅斑の鑑別を中心に、皮膚科の先生がどのように臨床推論しているのかを丁寧に解説してくれている1冊でした。

フローチャート形式でまとめられていて、確認すべきポイントがわかりやすかったです。

「写真合わせ」の診断ではなく、皮疹の性状から丁寧に鑑別疾患を考える方法を教えて貰える、初学者に優しい1冊でした。

 

 

■「皮疹の因数分解・ロジック診断」

 

■「患者をエンパワーする 慢性疾患セルフマネジメントの手引き」

患者をエンパワーする 慢性疾患セルフマネジメントの手引き

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「医療における不確実性をマッピングする」   

 → 読了

 

「終末期ディスカッション 外来から急性期医療まで 現場でともに考える」 

 → 読了

DNARに関する解説ページは全医療者が読んでおくべき内容だと思います。読みものとしても非常に面白かったです。

 

■「薬の現象学: 存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点」

 

■「思春期,内科外来に迷い込む」

 

 

今月は以上です。購入19冊、読了15冊でした。

 

ちなみにブクログでも読書記録をつけているので、よかったらみていってください!

booklog.jp

 

 

あと、こんな企画もやりますので、よろしければご参加ください〜

yktyy.hatenablog.com

 

 

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