2020/06/12 19:30〜21:00 2020年若手医師セミナー
第2回 「家庭医VS病院総合医 バトルトーク「なんでそうなるの?」
先程終了。
総合診療のトップランナー、山中克郎先生と藤沼康樹先生のトークとあって、耳の穴をかっぽじって、テレビっこ(古い)になって、必死にメモしました。
症例ベースでのトークで、
「病院での入院期間が限られた高齢化社会において、家庭医と病院総合医の連携は今まで以上に重要な課題。
検査を望まない患者、多数の科にかかっている患者、ポリファーマシー、「ナゾ処方」、軽症うつや不安障害の患者、への対応
これらの課題に家庭医と病院総合医はどう対応すればいいのか」
というのが、メインテーマでした。
共感できる内容、そして目からウロコの内容が満載です。
症例ごとに、それぞれの先生方のご発言をまとめました。
症例① 78歳女性
・発熱を主訴に総合診療科入院
・感染症ではなく悪性腫瘍が熱源っぽい
・精査を家族も本人も希望しなかったので、経過観察の方針で診療所に逆紹介
・発熱がやはり心配と家族が相談に来るが、検査はしたくない
藤沼先生
- 診断をつけないと治療できない、というわけではない
- ケアすることにおいて、診断は必要条件ではない
- 「意思決定は揺れるもの」という価値観を病診で共有しておく
- 自宅は身体の延長。判断の材料が多くなるので、自宅で過ごすと考えが変わることもある。
- 入院中は判断の材料が少ないため、考えがpoorになりやすい
- 病院と診療所のお互いの働き方を知っておく
- 長く見ているから良いというエビデンスはない
(縦断的継続性について:http://cfmd.jp/way/way_02)。
患者の健康にとってその医師が重要な立ち位置にいるのかどうか:personal continuity 。
※継続性とは,単に長期にわたって繰り返し診察すること(longitudinal continuity)ではなく,患者が担当医を自分の健康にとって重要なリソースだと認識していること(personal continuity)を含む.https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1414903536
そして、この重要な立ち位置に、一発の診療でなれるというのが家庭医療学のおしえ。
山中先生
- 患者の希望が一番優先されるべき
- 家族の心配もよくわかるが・・・
青木先生
- 治療可能な疾患があるのではないかという可能性はどう対応するのか
- 病院の中・外という違いだけで、ジェネラリストの考え方は同じ
質問:「認知機能障害があるときはどう判断する?」
藤沼先生
- 認知機能障害があるからといって判断能力がないとは考えていない。むしろうつ病のときのほうが判断能力が低下する。
- 部屋の中にいろいろとメモや写真を貼っている人がいて、ポートフォリオのようにその人の趣味や人生がわかることも。家のなかの写真やアルバムをみると、患者の人生がわかる。
- 在宅に帰ったあと、変わらない人もいるけれど、状態が良くなるひとも一定数いる。
山中先生
- 認知機能障害が出てくる前のころの考え方を、周囲のひとたちから聞いて相談する
- 長年患者さんと付き合いのある診療所の医師と、短い期間の付き合いである病棟医との温度差をどのように解消すればよいのか。
職種としてどのように成長すればよいか?
藤沼先生
- 水平統合、チームワークで重要なのは、「職種のアイデンティティをやめる」こと。「私は医師として発言します」みたいなのはやめる。職種を離れて、チームメンバーそれぞれの人生観的な視点、俯瞰した視点から発言してみる。職種としてというより、人間として成長してください笑。
症例② 88歳男性
・心房細動、骨粗鬆症、糖尿病、認知症がありDPC病院の各科(!)に通院している
・老老世帯で88歳の妻が面倒をみている
・不眠を主訴に診療所を初めて受診
・DPC病院での診療内容をいかに整理するか
山中先生
- 専門医は、ベストエビデンスに基づいて診療している(悪気はないのだろうけれど)
- 多疾患併存の場合、プライマリ・ケア医がゲートキーパーになるべきではないか
- 80歳以上の場合、エビデンスが示されているものは少ない
藤沼先生
- 病院によっては、どこかの科がまとめてみるというのは結構難しいのかも
- 多疾患併存の患者(マルチモビディティ)は、俯瞰的に、構造的に見る必要がある
- ベストエビデンスを積み重ねると、予後が非常に悪くなる
- 生活がすべて病気のための行動になってしまう
- 「いろいろあるけれど、この人結構安定しているよね」という、安定させている因子を把握する
- ひとりひとりは不安定でも、お互いが足りない部分を補うことによって、安定化していることがある。例えば夫婦をひとつのユニットとして判断する。BPSモデルをきちんと実践する。
- 医師が看護学を知らずに看護師と一緒に仕事しているのは重要な問題。
症例③ 85歳女性
・食欲不振と体重減少で内科初診外来受診
・3つのクリニックから合計15種類の薬が処方されていた。すべて内服している。
・入院し、必要最小限の3種類に薬を減らしたら、3日後には食欲が回復。胃カメラは異常なし。
藤沼先生
- これまで自宅で生活していた人が、施設に入所したときに薬をちゃんと飲むようになるので、ポリファーマシーの害がでやすくなるので注意。
- 入院は減らしにくい薬をへらすことができるチャンス。「薬を減らすための入院」もありかも。
- ただ、長年の関係から処方されている薬もある(場面と意味がくっついている薬)。処方に付随している意味を考えておくこと。処方には物語がついている。
- 前医の医療を否定しないこと。
症例④
・患者がかかりつけ医(クリニック)にもどりたくないという
・「総合病院だとすべての科があるので便利なんです」と患者は言う
・「ナゾ処方」が多いクリニックに患者を返していいのだろうか
例:風邪に抗菌薬を含め5種類の処方、85歳過ぎの高齢者にスタチンを処方、便秘の高齢者に漫然とカルシウム拮抗薬を処方する
藤沼先生
- 病院から診療所に対してフィードバックをしてくれる機会が意外とすくない。病院から処方についてアドバイスを少し加えて返書を作ってもいいかも。開業医の先生方はネガティブフィードバックをあまりもらっていない。
- 今、病院がプライマリ・ケア機能をある程度果たしても良いんじゃないかと思っている。
- 日本の「開業医」という言葉は、診療形態を示しているわけではない
- 「開業医=家庭医」ではないのが現状。
- 医師人生は一貫する必要はない。世の中で必要とされていることにトランスフォームする。
- 単一疾患にしぼって開業することは、マルチモビディティの時代においてリスク。
- 継続的に学習コミュニティをつくって学習していけば、トランスフォームしていくことは可能。
- 病院や診療所で、学習コミュニティをつくっていけばよい。
症例⑤
・うつ病や不安障害と思われる患者を心療内科クリニックに紹介しようとしても、2ヶ月待ちと言われる。
山中先生
- 総合診療医も精神疾患に対応できるようにならないといけない
- 軽症うつ・不安障害はプライマリ・ケアがみないといけない
藤沼先生
- プライマリ・ケア領域ではメンタルケアは避けられない。アルコール問題、統合失調症、不安障害の基礎的知識をもっておくのは必須
- DSMを使った診療の問題は、その疾患をもっている人がどんなことで生活に困っているのかが見えないこと。
- 身体科の弱点は、精神病理学を知らないこと。病像を理解する。DSMを読むよりも当事者記述を読むほうが臨床に役立つ
・・・・
最後に、今回のセミナーでもとりあげられていた、藤沼先生のブログの記事を引用させていただきます。
「年齢、性別、健康問題の種類によらない、非選択的な診療の能力をつける必要があり、そうした力を身につけるための研修が、本来の総合診療や家庭医療の専門研修プログラムが目指すところ」