岡山の家庭医の読書・勉強ブログ

岡山の家庭医のブログです。総合診療や家庭医療、哲学、ビジネス、いろいろ。

精神科のない病院で、うつ病を診ることのメリット

巷ではとあるメンタリストさんの差別的発言が話題となっていますが、今回はメンタルヘルスに関係した記事です。

 

総合診療医として地域の小病院で勤務していると、様々な症状を抱えた患者さんが受診します。はじめから専門的な高次医療機関に行ったほうがよい状況でない限り、「うちは〇〇科はないので診れません」とは言わない、非選択的外来となっています。

 

 

そのなかには、精神症状を中心とした主訴で受診される患者さんも。

 

 

非専門医が診るうつ病

個人が特定されないように色を加えてここに書きますが、先日、胃のあたりの痛みを主訴に中年の男性が受診してきました。

 

食後の胃の痛みということで、1ヶ月位前からつづいているとのことだったので、胃潰瘍なのかなと思いながら話をきいていると、どうも食欲がなく、気力もわかず、だんだんと物事を考えるのも難しくなってきたとのこと。

 

「おや、これはもしやうつ病ではないか・・・?」と私は疑い、DSM-5の診断基準も参考にしながら、いくつかの問診をすすめました。

 

※非専門医によるうつ病診療の資料は、こちらがまとまっています

http://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-kameda-170222.pdf

 

するとやはり、診断基準からはうつ病の診断となり、PHQ-9 (Patient Health Questionnaire-9:https://www.cocoro.chiba-u.jp/recruit/tubuanDB/files/PHQ-9.pdf を使用した重症度判定では、中等度でした。

 

このとき、明らかな希死念慮はなく、躁エピソードもありませんでした。

 

患者さんに、うつ病の可能性が高いことをお伝えし、もし可能であれば精神科で一度診察してもらうのはどうかと提案してみると、

 

「近所に精神科に通院していることが知られると、変な目でみられたりするのではないかと不安が強い。家族にもできれば知られたくないので、胃潰瘍の治療ということで、できればこの病院に通院したい

 

とお話されました。

 

 

精神科のない病院に通院するメリット

なるほど、家族には「〇〇病院の外来に、胃潰瘍の治療で通っている」と伝えるなら、嘘はついていないですね。田舎ならではの「近所の目」や情報拡散力も考えると、地域の小病院のほうが、受診のハードルが低いのも納得です。

 

ここに、非専門医ではありながらも、うつ病を精神科のない病院で診療する強みがあるように感じました。

 

もちろん、重症度が高かったり、希死念慮があったり、躁を疑うような患者さんであれば、専門医に紹介するのが望ましいことは重々承知しておりますが、

 

今回のケースのように、精神科受診へのハードルが高い状況の中で、精神科のない病院でうつ病を治療してもらいたいというニーズが確かにあるのだと実感しました。

 

 

うつ病の半分近くの方がそもそも医療機関に受診しておらず、受診したとしても、はじめは精神科以外を受診される方が多いとのことなので、プライマリ・ケア医のひとりとして、うつ病患者さんへの対応方法を知っておくことは必須ですね。

 

ちなみに、わたしの好きな精神科の本はこちら。

 

 

 

「ゆっくり読む」って意外と難しい・・・

「読む脚力」が衰えている。

 

とある勉強会で、批判的吟味や論理的思考に関する話題があがり、そこでオススメされていた一冊を購入しました。

 

野矢茂樹先生の「新版 論理トレーニン」です。

かなり頭を使いながら、じわりじわりと読んでいます。

 

オンラインでミーティングをする機会が増え、議論を交わすことも多いと思います。私は意見を述べる際、頭に思い浮かんだことをできる限り論理的に組み立てながら話しているつもりですが、そもそも「論理的」ってどういうことなのか、正直わかっていませんでした。

 

論理力とは、言葉と言葉の関係をとらえる力であり、コミュニケーションのための技術、言語能力の一つ、「読み書き」の力であると述べられています(本書2ページ)。

考えをきちんと伝え、伝えられたものをきちんと受けとる。思考の結果を、できる限り一貫した、飛躍の少ない、理解しやすい形で表現する。そこに論理が働く。(本書2ページより転載・引用)

 

 

この本には様々な例文が掲載されており、その例文を適切に読み解くトレーニングが、序盤に設けられています。そして、文と文の間の接続関係を適切に読み解くために、ゆっくりと読むことが強調されています。

 

 

この「ゆっくりと読む」というのが、思った以上に難しい。

 

 

この本にも、

実際、急ぎ足で読み飛ばすよりも、何気ないところにも注意しながら立ち止まることの方が、「読む脚力」は要求される。(ページ31より引用)

と書かれてあるとおり、ゆっくり読むことは、速く読むことよりもスタミナが必要であると感じます。いや、スタミナというよりは忍耐でしょうか?ここはやはり、この本に書かれてある「読む脚力」という言葉がしっくりきますね。

 

 

スマホで毎日たくさんの記事を読むようになってから、じっくり文章を読む機会が減ったような気がします。

無意識に飛ばし読みしてしまっていませんか?結論をできる限り速く知りたいとおもったり、その文章のエッセンスだけ知りたいとおもったり。

ババーン!と刺激的で、インスタントな情報を求めてSNSをふらついたり。

 

 

時間に追われる日々だから、読み飛ばしてしまっているとも考えられるけれど、それだけではない気がします。考えなくても読める記事が多いのも確か。

 

 

本を読むときもまた然り。精読できているようで、意外とその文章の論理が追えていないことが、多々あります。

もともとあるのかどうかも定かではないですが、「読む脚力」が衰えてきていることは確かなようです。読書における廃用が進んでいる。

 

 

「読む脚力」は、自分の頭で考えることと関わっていますよね。考える前に、すぐに超えを求めようとして、検索してしまっているのだと思います。それでたどりつける問題や悩みならなおさら。検索して答えがみつからなかったら、諦めてしまったり。つまりは、問題解決志向で生活しているのだと思います。また、結果を重視して、プロセスは蔑ろにしているのだと思います。

 

 

ゆっくり、じっくり、文章と向き合って、自分の頭で考えて、読みすすめる。文と文の関係を理解する。議論の全体構造を把握する。そういった泥臭さが、「読む脚力」ないしは自考するスタミナを増やしてくれるんですよね。

 

 

岡山の家庭医が2021年6月・7月に購入して読んだ本の一覧

気を抜いていたら、いつのまにか6月と7月が終わってしまいました。

2ヶ月間の間に購入して読んだ本の記録です。

オススメの本もいくつかありますので、よければご参考ください!

 

【一般書】

●あそびの生まれる場所—「お客様時代」の公共マネジメント  → 読了(オススメ)

行き過ぎた公共化が、住民を「お客様化」してしまっている。自分ごととして考えて、自分のすむ町をより心地よい場所にしていくには、色んな意味での「あそび」が必要。

 

●誰がために医師はいる  クスリとヒトの現代論 → 読了(オススメ)

長年、依存症患者さんと正面から向き合ってきた松本先生のエッセイ。依存症は決してその人の心の弱さが原因ではない。ストレスコーピングとしての依存。「ダメ、絶対。」はダメ、絶対。

 

●プレイフル・シンキング[決定版] 働く人と場を楽しくする思考法 → 読了(オススメ)

とある家庭医の先生がオススメされていたので購入。この本を読んで、「楽しむ」が自分の中での大切な価値観になっていきました。シンプルだが重要。「楽しいからやる」というのは、根源的であり、それ以上の理由は必要ないですね。世の中、自分の認識次第。なんだか唯識論みたいですね。

 

 

●共感SNS 丸く尖る発信で仕事を創る  → 読了(オススメ)

読む前までは、完全にゆうこすさんをなめてました。デザイン思考でどんどんチャレンジしていって、その経験と学びを言語化してまとめてくれています。フォロワー数の単純な多さだけでなく、そこに共感や熱量があわさってファンが生まれる。

 

●生きがいについて (オススメ)

「荒木博行のbookcafe」でとりあげられていたので購入。有名な本なのに、今まで知らずに生きてきました。もっと早く出会えればよかった。精読してじっくり読んでいます。

どういうひとが一ばん生きがいを感じる人種であろうか。自己の生存目標をはっきりと自覚し、自分の生きている必要を確信し、その目標にむかって全力をそそいで歩いているひと――いいかえれば使命感に生きるひとではないであろうか。

 

●ライティングの哲学 → 読了(オススメ)

書くことって苦しい。だけれど、書くことってもっと気軽でいいはず。 

この本を読んでから、執筆意欲が少し湧いてきました✍

 

※この本にあった「無能フィルター」という概念について、ブログ書きました。


●すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術 → 読了(オススメ)

「ライティングの哲学」とあわせて、書くことや記録を取ることの効用を改めて感じさせてくれる一冊。

 

※この本についても、昨日ブログ記事を書きました↓ 

 

 

●ぼくたちに、もうモノは必要ない。 - 断捨離からミニマリスト → 読了

中田敦彦Youtube大学」にとりあげられていたので購入。ミニマリストは、たんなる断捨離術ではなく、生き方そのもの。「足るを知る」はぼくの座右の銘でもあります。わたしたちは気がついていないだけで、実はもう、幸せなんじゃないかと。

 

 

●本を読めなくなった人のための読書論 → 読了

本そのものの内容ももちろんですが、とにかく文章が柔らかい。読み手への配慮がすばらしい。読んでいると心が落ち着きます。装丁もさわり心地がいいです。

最近は、本を精読することが多くなってきました。

 

 

●こんな一冊に出会いたい 本の道しるべ (NHK趣味どきっ!)  → 読了

「本読みたい!」ってなるムック本です。素敵な本屋もたくさん載ってます。

 

●「利他」とは何か

こちらも現在精読中。國分功一郎さんの名前があったので、気になって購入しましたが、他の執筆者の方々の考察も非常におもしろく、いい意味で期待を裏切られました。

特定の目的や必要があらかじめ決められているケアが「押しつけの利他」でしかないように、条件にあったものしか「享け」ないものは、うつわではない。「いる」が肯定されるためには、その条件から外れるものを否定しない、意味から自由な余白が、スペースが必要です。

 

 

●敵とのコラボレーション → 読了

賛同できない・好きではない人とチームを組んでいる時、そのチームが前進していくためにはどうあるべきか。対話はひとつの手段に過ぎない。「ストレッチ・コラボレーション」がその鍵になる。「対話万能説」にメスを入れる、現実主義的な一冊です。

 

●問題をシンプルにして毎日がうまくいく ふだん使いのGRAPHIC RECORDING → 読了

iPadで手書きメモを残す機会が増えてきたので、グラフィックレコーディングにあこがれて購入。構造的に考えたりするときは、やっぱり手書きが良いですよね。

 

※この本を読んだあと、とある勉強会で描いたノートがこちら↓f:id:yktyy:20210731122053p:plain



 

●科学哲学の冒険 サイエンスの目的と方法をさぐる → 読了

戸田山和久先生の専門である科学哲学について、わかりやすく(?)解説された一冊。「科学とはなにか?」、「科学の目的は?」、「説明とは?」といったような、科学に関する哲学的問いから学べます。存在の証明って難しいですね。コロナ禍で、「コロナウイルスは存在しない!」と叫んでいる方々にも、読んでもらいたい一冊です。

 

●決定版-HONZが選んだノンフィクション → 読了

書評って良いですよね。読書の楽しさやワクワク感を駆り立ててくれます。

 

●哲学と人類 → 読了

文字の発明や印刷術、ラジオにいたるまで、メディアを中心に添えながら、哲学と人類の歩みを解説している一冊。「サピエンス全史」みたいな雰囲気もあります。

古代ギリシャのパートに書かれてあったこととして、ソクラテスは文字記録を残すことを嫌っていたそうですが、弟子であるプラトンソクラテスの言動を記録したことで、こうして私達の手元にも届いている。文字記録は後から振り返ってみたり、客観的に考察していく上で、やはり重要な役割を果たしてきたことは間違いなさそうです。

 

●体験の哲学 → 読了

「史上最強の哲学入門」の飲茶さんの著書。やっぱりタイトルに「哲学」と入っていたら買ってしまいます。

内容はシンプル。日々の様々な体験を意識的に味わうことの大切さ。今までの人生で、まだまだ体験できていないことはたくさんあるのだと感じさせられる一冊。サラッと読むことができます。

 

●人間にとって健康とは何か

現在も読書中。日本のヤンキー文化のレジリエンスの高さについての考察が面白いです。

 

 

人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか  → 読了

内容はちょっと薄かった印象。

 

 ●サボる哲学 → 読了

「サボる」ことに関する深い考察を期待していましたが、あまり私には文章が合いませんでした。

 

 

 

 

 

 

医学書

●困難事例を解きほぐす → 読了(オススメ)

これは総合診療・家庭医療界隈の方々は必読だと思います。医療に限らず、複雑な問題に直面した際、問題の構造化やアセスメントに力を貸してくれそうな一冊です。スルメ本。

 

※この本については、以前にブログにも内容をまとめました↓ 

●ヘルマン医療人類学

 

●在宅緩和ケアハンドブック 第3版

 

● 対人援助職のための家族理解入門―家族の構造理論を活かす

大学の総合診療学の講義で、外部講師の先生がオススメされていた一冊。

家族志向のアプローチの勉強に。

 

●総合内科病棟マニュアル 病棟業務の基礎(赤本)

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誤配のこととか、連載することになったこととか。

ここ数日、書くことに関する書籍をいくつか読んでました。

ライティングの哲学」では、書くことの苦しさとともに、気軽に書くことの重要性も語られておりました。あと昨日読み終わった「すべてはノートからはじまる」は、書くこと、特に記録をとることの効用を再認識させてくれる一冊でしたね。

 

 

誤配

「ライティングの哲学」と「すべてはノートからはじまる」に共通したポイントとして、なにかを目的とした規範的な記録というよりは、無目的に記録をとっていくことで生まれる、予想外の化学反応や、予期しなかった出会いや発見について、どちらも言及されていたことでした。

 

 

特に「すべてはノートからはじまる」で、東浩紀さんの誤配の概念がとりあげられてます。誤配という言葉そのものは、事故的に間違った宛先に届くといったような、ネガティブなイメージがありますが、東さんはそれをポジティブなイメージで捉えている。

 

東さんはむしろ、自分の発信したメッセージが、予想もしなかった形でだれかに届く、本当はしらなくてもよかったことや、知る由もなかったことを偶然に知る、そういった事故が、イノベーションやクリエイティブのきっかけになると述べています。

(参考:東浩紀「〈誤配〉はイノベーションやクリエーションの源だ」|教養|婦人公論.jp )

 

 

 

 

そういえば連載することになりました

このブログもマイペースに、自分の思うがままに書いているわけですが、いつの間にか、いろいろな方々に読んでもらえていることを、最近知りました。

特定のだれかに向けて発信しているわけではない(強いて言うなら医療関係者?)ので、嬉しい限りです。

 

そんなこんなで、ある種の誤配によってつながった新たな活動として、「地域医療ジャーナル」という月1回発行の医療系ウェブマガジンで、連載させていただけることとなりました。

 

マイペースながらも発信をつづけていたら、こういうこともあるんですね。これからも「まぁなにかの役には立つんじゃない?」くらいの気持ちで、こちらのブログを更新していきたいと思います。

 

よかったら「地域医療ジャーナル」も購読してください。

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