岡山の家庭医の読書・勉強ブログ

岡山の家庭医のブログです。総合診療や家庭医療、哲学、ビジネス、いろいろ。

ジェネラリストであれ。(読書記録:「RANGE 知識の「幅」が最強の武器になる」)

読書記録。

本屋の一角に平積みされており、

「人生で成功するのは「スペシャリスト」よりも「ゼネラリスト」だ!」


という帯をみて思わず購入。

 

さっと通読できたので忘れないうちにアウトプットしておく。

 

 

この本の結論を一言で言うなら、

早めの専門特化よりも、多様な経験を通じた寄り道や試行錯誤で得られた「幅(=RANGE)」が強みになる

ということ。

 

あらかじめ言っておくが、この本でも書かれてあるとおり、専門特化すること、スペシャリストであることを否定しているわけではない

専門性を持つこと自体は何ら問題ないものの、筆者が警鐘を鳴らしているのは、早い段階で専門を決めて、最短ルートでその専門性を極めていく教育やキャリア形成に対してである。

たしかにそういった教育、キャリア形成はわかりやすい。

 

しかし、VUCAな時代である昨今、情勢が刻一刻と変化し、何が正解か、その時時で様々に変化しているこの世界で、早期の専門特化はその変化に順応できない可能性が高い。

 

早期に専門特化したスペシャリストは、抜きん出てスピード感をもって成長を実感することができるが、その後伸び悩み壁にぶつかってしまうケースが多いという。

 

一方、様々な分野に関心を持ちながら多様な経験を積みつつ、ゆっくりと自分の中にある興味や問題意識と向き合いながら、徐々に自身の専門性を決定していくジェネラリストは、その専門においてもこれまでの経験や他分野の知識を応用しながら、世界の変化に対応することができる。

 

また、問題設定が予めされており、その特定の問題を解決する際、スペシャリストは強い力を発揮する。しかし、問題設定がなされていない状況、自身で問題を発見しなければならない状況においては、ジェネラリストが強みを発揮できることが多い。

 

一つの問題や領域の概念的な知識を、全く別の問題や領域に適用できる、領域を越境できる人材が求められることは間違いない。

 

これは医師においても同じことが言えると思われる。

 

ただ、単に医療業界におけるスペシャリストとジェネラリストの対比で考えるのではなく、医師として医療以外の他領域にも造形を深めていくこと、学際的であることが、これからは求められるのではないかと感じた。

 

いきなり遠い領域に手を伸ばすのではなく、医療にとって介護や福祉は近い領域であり、手を伸ばしやすいのではないかと思う。

また、個人的には哲学とのつながりは重要であると感じている。今、哲学者の國分功一郎さんの本をいくつか併読しているが、その中で解説されているスピノザの哲学は非常に参考になる。スピノザは人の本質を「力」で捉えることで、ナラティブな側面を重要視していることもわかる。また、國分功一郎さんはスピノザの哲学から発展し、能動態と受動態、そして中動態という概念を用いて意思と責任についての考察を深めている。これらは医療において、患者理解を補助してくれる。

 

 

今自分が専攻している総合診療はジェネラルである。それ故、成長をなかなか実感できないことも多い。分野を絞った研修を積んでいる他の医師を比べたとき、「自分は一体なにができるのだろうか」「どんどん先を越されているような気がする」と思うかもしれない。

 

しかし、この本の最後に書かれているアドバイスの通り、「後れを取ったと思わないこと」。自分を誰かと比べるのではなく、自分自身と比べる。他人を観て後れを取ったと思わないこと。

 

意欲を持って学び、道を進む中で順応して、時にはそれまでの目標を捨てる。(p399)

あちこちに寄り道をしながら考え、実験するほうが、特に不確実性の高い現代では力の源になる。(p400)

 

 

 

 

 

 

 

 

コロナ禍での顔面神経麻痺

救急外来で経験した症例。

 

【症例】

30代男性。

1日前からの発熱と、ペットボトルで飲み物を飲むと左の口からこぼれるとのことで受診。鼻汁、咳嗽あり。

5日前に多人数での会食あり。

鑑別は・・・?

 

 

 

 

 

 

 

【診断】COVID-19による末梢性顔面神経麻痺

・翌日のPCR提出検査結果で、SARS-Cov2 PCRが陽性であった。

 

■COVID-19による末梢性顔面神経麻痺

コロナ禍における末梢性顔面神経麻痺はCOVID-19も鑑別に挙げる

・想定される病態は、顔面神経を栄養する血管の虚血。

・髄液所見で特記所見はない

・頭部造影MRI T1強調画像で、病側の顔面神経に高信号がみられるかもしれない

・治療はプレドニゾロン40〜60mg/日×5〜7日間HSVもカバーする目的でアシクロビルを内服しても良いかもしれない。

 

参考文献

www.ncbi.nlm.nih.gov

 
 
 
感じたこと
本当にいろいろな主訴で受診されることの多い疾患ですね。血管炎のように、なんでもアリな感じです。味覚障害は鼓索神経の障害なので、顔面神経麻痺はなんとなく想像はつきます。
2021年現在、全患者に接触歴・行動歴を確認して疑わしかったり、発熱や気道症状がみられている場合には閾値を下げてPCR検査を提出しています。
 
 
 
 
顔面神経麻痺について | よこい耳鼻咽喉科 ホームページ
 
 

2020年を振り返る。

2020年も今日でおわり。

今年はこのブログを始めたことがプライベートで大きな出来事でもあります。

深瀬先生のブログ記事で使われているYWT法で私も振り返ってみようと思います。

yamagatageneral.hateblo.jp

 

Y:やったこと

臨床
■2019年4月〜2020年3月:岡山大学病院総合内科・総合診療科
■2020年4月〜2021年3月:岡山市民病院
      2020年4月 総合内科
      2020年5月 消化器内科
      2020年6〜7月 血液内科
      2020年8〜9月 リウマチ膠原病内科
      2020年10〜11月 脳神経内科
      2020年12月 産婦人科

 

研究
■血中骨型アルカリホスファターゼ/アルカリホスファターゼ(BAP/ALP)比の臨床的有用性に関する検討
→ Yokota Y, Nishimura Y, Ando A, et al. Clinical Application of the Ratio of Serum Bone Isoform to Total Alkaline Phosphatase in General Practice. Acta Med Okayama. 2020 Dec;74(6):467-474. PMID: 33361866. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33361866/

 

 

学会発表・ワークショップ

■2020年2月8日 第15回日本プライマリ・ケア連合学会 冬期セミナー
・公募ワークショップ「SDHにできることはまだあるかい?」 http://www.primary-care.or.jp/seminar_w/20200208/pro.html#ws2

・全体講演係 

第15回若手医師のための家庭医療学冬期セミナー全体講演「介護と医療で創り出す理想のケアとは?」 

www.facebook.com

 

 

■2020年8月10日 第32回 日本プライマリ・ケア連合学会 夏期セミナー
公募ワークショップ「家庭医療学×社会疫学 患者さんの困りごと,その正体わかりますか?」 http://www.jpca-srs.umin.ne.jp/wp/archives/980#toc25

 

■2020年11月26日~12月9日 第31回間脳・下垂体・副腎系研究会
オンライン発表「下垂体卒中による意識障害を契機に浸透圧性脱髄症候群をきたした一例 」

 

 

講演・出演
■2020年3月20日 Antaa配信
「病気になるのは本当に自己責任?健康格差と健康の社会的決定要因」https://med.antaa.jp/00074

 

■2020年6月5日 Antaa配信
「新たな専門領域!総合診療専門研修の未来を語る」https://med.antaa.jp/interview-Doctors-Primary-care

 

■2020年8月15日 適々斎塾
「困難事例から学ぶ家庭医療学」https://www.facebook.com/events/960044377755912/

 

執筆

和文
書籍
■中外医学社 2020年4月 「General Mindで攻める 総合内科で診る内分泌疾患」
 ・先端巨大症:睡眠時無呼吸症候群手根管症候群・大腸ポリープなどから想起する 〈横田雄也〉
 ・副甲状腺ホルモンとカルシウム・リン調節系 〈横田雄也〉
 ・下垂体卒中への対応:ヒドロコルチゾン投与を忘れずに 〈横田雄也〉
 ・低ナトリウム血症への対応 〈副島佳晃 横田雄也〉
https://www.amazon.co.jp/dp/4498020847/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_oPz7FbT4MD6CE
http://chugaiigaku.jp/item/detail.php?id=3181

 

雑誌
■南山堂 治療 2020年2月 Vol.102 No.2:特集「症例から学ぶ栄養素欠乏 小粒だけど大事なあいつ」
・症例クイズ:ビタミンD (横田雄也,他)
・Pitfall に気をつけたい,微量元素・ビタミン欠乏:ビタミンD (横田雄也,他)
http://www.nanzando.com/journals/chiryo/900202.php

 

医学書院 総合診療 2020年 1月号 : 特集「総合診療医の“若手ロールモデル"を紹介します!」
・若手ロールモデル&データファイル集
(13)「お医者さん」×(卒前・卒後教育+質的研究) 横田雄也
https://www.igaku-shoin.co.jp/journalDetail.do?journal=91764

 

医学書院 総合診療 2020年 12月号 : 特集「 ‟ヤブ化"を防ぐ! 「外来診療」基本の(き)Part2」
Updateʼ20|横田雄也
自分の将来を他人に託してはならない|総合診療専門研修「専攻医説明会」に参加して
https://www.igaku-shoin.co.jp/journal/detail/91775

 

ネット記事

■2020年6月 日経メディカル 「総合診療専門研修構築の議論に透明性を求める署名を始めました!」
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/opinion/orgnl/202006/565984.html

 

■2020年6月 m3.com 「「専攻医ファースト」で総合診療科を変えたい-発起人2人に聞く」
Vol.1 https://www.m3.com/news/iryoishin/786559
Vol.2 https://www.m3.com/news/iryoishin/786560

 

■2020年9月 日経メディカル「専門医試験、議論の透明性、質の担保は?」
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cadetto/igakusei/report/202009/567291.html


<欧文>

Original article
■Yokota Y, Nishimura Y, Ando A, et al. Clinical Application of the Ratio of Serum Bone Isoform to Total Alkaline Phosphatase in General Practice. Acta Med Okayama. 2020 Dec;74(6):467-474. PMID: 33361866.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33361866/

 

医学教育

岡山大学医学部医学科 総合診療学 講義

  ・2020年7月1 日 

  ・2020年7月15日 

 

岡山大学医学部医学科 行動科学V 
  ・2020年5月8日 SDH講義

 

活動

■署名活動

「総合診療専門医研修をもう一度、「専攻医」のためのものに!」

sohshinchange.wixsite.com

 

■Team SAIL

sites.google.com

 

 

プライベート

■2020年5月 ブログはじめた

■Voicyをききはじめた

  ・荒木博行のbook cafe https://voicy.jp/channel/794/117057

  ・澤円の深夜の福音ラジオ https://voicy.jp/channel/632/117834

  ・歴史を面白く学ぶコテンラジオ https://voicy.jp/channel/1361/115522

哲学書・歴史書を読み始めた

■ドコモからソフトバンク → Y!モバイルに乗り換えた

iDeCo、積立NISAを始めた

インデックス投資をはじめた

鬼滅の刃の映画を3回も観に行った

 

 

 

 

 

W:わかったこと

・自分自身の臨床のキャパシティが把握できた。

・意外と周囲の人達は自分の活動を見てくれている。

・自分が楽しいと思えることに集中する。興味・関心のないことを無理にがんばらない。

・断る勇気をもつ重要性を知った。

 

 

 

T:次にやること

■他人と自分を比較しない

 → 毎年言っているけれど今年も。比較癖をなおしたい。

■質的研究

 → そろそろ集めたデータの分析を終わらせる → 論文を書き始める

ポートフォリオ

 → こちらも手をつける。来年は5つのポートフォリオを作成する。

 

 

*********

こうやって眺めてみると、今年もなんだかんだで走りっぱなしの1年間でした。

Voicyをききはじめて、哲学や歴史に関心が広がっていったのは大きいですね。

来年も学びを止めず、このブログでもアウトプットを続けていきたいと思います。

 

 

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本当の目的を再確認する (コンフリクト・マネジメントの基本から)

関係各所でいろいろな対立や紛争が勃発している(なにか特定のものを指しているわけではありません)ので、私の知っているコンフリクト・マネジメントに関して。

 

海外企業との対立のイラスト | かわいいフリー素材集 いらすとや

対立が生まれると、お互いの意見と意見がぶつかりあい、議論が平行線になることは少なくありません。

そして、いかに相手を納得させる(もしくはねじ伏せる)ことに力が注がれてしまっていることも多々あります。

 

オレンジの話

突然ですが、みなさんは次の「オレンジの話」をご存知でしょうか。結構有名なのでご存知かもしれません。

 

1個のオレンジがあります。ある姉妹が、この1個のオレンジを取り合っていました。

姉は「オレンジジュースが作りたい」といっており、妹は「マーマレードが作りたい」といっていて、お互いに譲る気配がありません。

どのように解決したら良いでしょうか?

 

 

方法はいくつかあります。

・半分ずつわける(妥協)

・一方が我慢して他方に譲る(服従)

・一方が無理やり1こを独り占めする(強制)

などなど。じゃんけんで決めるのも、どちらかがあるルールに基づいて妥協しているこことになります。

これらは二重関心モデルというモデルで説明されています。

「自分の意向」と「相手の意向」を軸とした解決策の分類

https://www.tempstaff.co.jp/magazine/nippon/vol53.html より

 

 

「〇〇したい」というのは、主張にあたります。

しかし、主張の根っこには、目的やニーズがあります。

意見の対立」を「チャンス」に変えるコツ | 医療特化型の研修・組織開発ならアクリート・ワークス

 

https://accreteworks.com/publicseminar-latestinformation/ikentairitsu より

 

お互いの目的やニーズを確認しフォーカスすることで、別の解決策を模索することができます。そして最終的にお互いがWin-Winな状態、協調をめざすことを統合型交渉といいます。

 

お互いの目的やニーズを確認してみると、実は根っこは同じだったということが結構あります。

 

今回の「オレンジの話」に戻り、姉と妹の目的・ニーズを確認してみると、

 

・姉は「仕事が忙しいお母さんがオレンジジュースが好きだと言っていたから、お母さんを喜ばせたくてジュースが作りたい」

・妹は「マーマレードをぬったパンが好きだと前にいっていたから、お母さんに喜んでもらいたいからマーマレードが作りたい」

 

というものでした。作りたいものはジュースとジャムで異なっていますが、実はふたりとも「お母さんを喜ばせる 」という目的は一致していたのですね。

 

ここで、料理好きなかたはピンときたかもしれません。

ジュースはオレンジの「身」があればできます。マーマレードはオレンジの「皮」をつかって作ります。そう、姉は身をつかって、妹は皮をつかって料理すれば良いのです。

 

 

 

お互いの最終的な目的を再確認する

これはコンフリクト・マネジメントでよく出される話なので、ご存じの方も多かったかもしれません。この話で何が言いたいかと言うと、「お互いに向いている方向は実はいっしょなのだから、もっとお互いの考えを共有して、共通の目的の達成のために建設的な議論をして、協力しましょう」ということです。なんだか弁証論的でもあります。

 

対立が生まれたときには一度立ち止まってみて、最終的な目的はなんだったのか再確認し、大局観を持った協調が必要かもしれません。